なぜ
「ネットワーク境界防護」
が必要なのか
本コラムは、経済産業省・IPAが策定した
「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」
について、その要求事項を中国古典『孫子の兵法』の視点から読み解くシリーズです。
前回は「プラットフォームセキュリティ」を取り上げ、
負ける原因を作らない土台を整備することの重要性を整理しました。
大分類:攻撃等の防御 / 中分類:技術インフラのレジリエンス(4-5)
ネットワーク境界防護とは何か
(SCS評価制度の要求)
SCSが求めていること
SCS評価制度では、
- ファイアウォールやルータの適切な管理
- 認証されていない通信の遮断
- 不要な通信経路の排除
- インターネット接続環境の保護
- ネットワークの適切な分離
が求められています。
ネットワークを適切に分離し、
通信経路と接続範囲を制御することで、
侵入が発生した場合でも影響範囲を限定すること。
重要なのは侵入を完全に防ぐことではなく、
侵入後の影響を制御することです。
第8回では、
認証とアクセス制御によって侵入されにくい状態を作りました。
第10回では、
侵入後もデータ被害を成立させない仕組みを扱いました。
そして今回のテーマは、
「侵入されたとしても被害を広げないこと」
です。
なぜネットワーク境界防護が必要か
(孫子における考え方)
孫子は地形について次のように述べています。
地形者,兵之助也
―『孫子兵法・地形篇』
(地形は戦いを助ける重要な要素である)
戦いにおいては、
- どこで戦うのか
- どこへ進めるのか
- どこを遮断するのか
によって勝敗が大きく左右されます。
戦う者だけでなく、
戦う場所もまた重要な戦力なのです。
孫子の文脈
孫子は、
戦場を単なる背景として扱っていません。
優れた将は、
- 敵が進みやすい場所
- 敵が進みにくい場所
- 守るべき地点
- 遮断すべき経路
を理解し、
地形そのものを味方につけます。
つまり、
戦う環境を設計すること自体が戦略なのです。
ビジネスの文脈
現代企業において、
ネットワークは戦場の地形に相当します。
- 端末とサーバが接続される
- 部門間で通信が行われる
- 外部サービスと連携する
- インターネットと接続される
こうした接続関係によって、
攻撃の進路も決まります。
そのため、
- どことどこを接続するのか
- どこを分離するのか
- どこを通過できるのか
を設計しなければなりません。
SCS評価制度がネットワーク境界防護を求めるのは、
ネットワーク構造そのものが防御の一部だからです。
ネットワークは戦場である
現代において、
ネットワークは組織のすべてを接続する基盤です。
- 端末とサーバがつながる
- クラウドサービスと接続する
- 取引先と情報を共有する
- インターネットと通信する
つまり、
ネットワークこそが、
すべての戦いが行われる場所です。
ネットワークが分離されていない場合のリスク
ネットワークが分離されていない場合、
- 一箇所の侵入が
- そのまま内部へ広がり
- 重要領域へ到達する
可能性があります。
攻撃者が侵入した後、
- 端末からサーバへ
- 部門ネットワークから基幹系へ
- 一般利用領域から重要情報領域へ
自由に移動できる状態であれば、
初期侵入は小さな問題でも、
組織全体へ影響が拡大します。
局所的な侵害が全体障害へ発展することこそ、
分離されていない構造の最大のリスクです。
ネットワーク分離の本質
ネットワーク分離とは、
- 領域を分ける
- 通信経路を制御する
- 進行方向を限定する
という設計です。
SCS評価制度が求めているのは、
単なる技術設定ではありません。
攻撃の広がり方そのものを設計で制御することです。
仮に侵入が発生したとしても、
- 重要情報領域へ到達できない
- 管理系ネットワークへ侵入できない
- 他システムへ横展開できない
状態であれば、
被害は局所化できます。
境界防護の意味
SCS評価制度では、
- ファイアウォール管理
- 不要な通信経路の削除
- 認証されていない通信の遮断
- ネットワーク境界の管理
が求められています。
境界とは、
社外と社内の間だけではありません。
重要なのは、
- 利用者領域と管理領域
- 通常業務領域と重要情報領域
- 公開領域と内部領域
の間にも境界を設けることです。
境界を設計することによって、
攻撃者が自由に移動できる範囲を制限できます。
SCS評価制度が求める本当の到達点
SCS評価制度は、
- ネットワークを分離すること
- 境界を防護すること
- 不要な通信を許可しないこと
- 侵入経路を制御すること
を求めています。
しかしその本質は、
「侵入を前提として被害範囲を限定すること」
です。
攻撃を完全に防ぐことはできません。
だからこそ、
- どこまで到達できるか
- どこまで横展開できるか
- どこで遮断できるか
を設計しなければなりません。
まとめ
ネットワーク境界防護とは、
- 技術的な設定ではなく
- 被害を制御するための構造設計です
戦場を制御できる範囲に収めて初めて、
防御は成立します。
地形者,兵之助也
(地形は戦いを助ける重要な要素である)
優れた防御とは、
侵入をゼロにすることではない。
被害が広がらない構造を作ることである。
チェック:ネットワーク境界防護は機能しているか
以下はチェックシートです。
すべてに☑が付く状態が望ましい状態です。
- ☑ ネットワークが役割ごとに適切に分離されているか
- ☑ 重要領域へのアクセスが必要最小限に制御されているか
- ☑ ファイアウォールルールが定期的に見直されているか
- ☑ 不要な通信経路が残っていないか
- ☑ 社外公開領域と内部領域が分離されているか
- ☑ 一箇所の侵害が全体へ広がらない構造になっているか
- ☑ ネットワーク構成を把握し、更新できているか
もしこれらに一つでも☑を付けられない場合、
侵入後に被害が拡大する可能性があります。
優れた防御とは、
侵入を完全になくすことではありません。
重要なのは、
- どこで止めるのか
- どこまで到達できるのか
- どの領域を守るのか
を設計しておくことです。
今からできるアクション
☑が付かなかった項目がある場合は、以下から始めましょう。
- 最新のネットワーク構成図を確認する
- 重要情報を扱う領域を洗い出す
- 社外公開システムの配置を確認する
- ファイアウォールルールを棚卸しする
- 不要な通信経路や接続先がないか確認する
- 侵害発生時の影響範囲をシミュレーションする
ネットワーク境界防護の目的は、
通信を不便にすることではありません。
重要なのは、
- 必要な通信だけを許可すること
- 影響範囲を限定すること
- 重要領域を守ること
です。
まずは、
「どの通信が本当に必要なのか」
を把握することから始めましょう。
次回は「継続的監視」を取り上げ、
異常を継続的に発見し続けることの重要性を整理します。
