なぜ「取引先管理」が必要なのか
本コラムは、経済産業省・IPAが策定した「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」について、
その要求事項を中国古典『孫子の兵法』の視点から読み解くシリーズです。
前回は「監督(マネジメントサイクル)」を取り上げ、意思決定を循環させ続ける重要性を整理しました。
大分類:サプライチェーン / 中分類:取引先管理(2-1)
取引先管理とは何か(SCS評価制度の要求)
SCS評価制度では、以下のような対応が求められます。
取引先との関係把握、機密情報の取扱いの明確化、取引先のセキュリティ状況の確認、
インシデント時の役割分担、契約終了時の情報回収・破棄を行うこと。
自社だけでなく、関係する組織全体を対象に管理することが求められます。
なぜ取引先管理が必要か(孫子における考え方)
この考え方は、孫子にも示されています。
知彼知己,百戰不殆
―『孫子兵法』
(彼を知り己を知れば百戦殆うからず)
この「彼」は敵に限定されるものではなく、
現代においては取引先や委託先など、関係するすべての主体を含みます。
関係先を把握できていなければ、どこがリスクになるかを判断することはできません。
関係の把握とは何か
取引先管理の第一歩は、関係の可視化です。
- どの組織とつながっているか
- どの情報をやり取りしているか
- どこに依存しているか
これは、戦場の全体像を把握することに相当します。
機密情報の境界を定める
機密情報の取扱いを明確にすることは、管理範囲を定めることです。
- 保存場所が統一される
- アクセス権限が明確になる
- 責任範囲が整理される
管理対象が曖昧なままでは、対策は機能しません。
弱点は外に存在する
取引先のセキュリティ状況の把握も重要な要素です。
以實擊虛
(弱いところを攻める)
攻撃者は最も侵入しやすい箇所を狙います。
- 自社
- 委託先
- 関連会社
区別なく、最も弱い場所が攻撃の入口となります。
連携の設計
インシデント発生時には複数の関係者が関与します。
- 誰が対応主体となるか
- 誰が連絡するのか
- どこまで対応するのか
事前に役割が決まっていなければ、初動が遅れます。
契約終了時の対応
契約終了後の情報回収・破棄も重要な管理対象です。
- アクセス権が残る
- データが削除されない
- 情報が残存する
利用が終了しても、リスクは残り続ける可能性があります。
まとめ
取引先管理とは、
- 取引の管理ではなく
- 契約の管理でもなく
セキュリティの対象範囲を定義することです。
組織は単体で存在しているわけではありません。
つながるすべてが、管理対象となる。
管理対象は正しく把握されているか
すべてに☑が付く状態が望ましい状態です。
- ☑ 取引先との関係が可視化されているか
- ☑ 情報の流れが明確になっているか
- ☑ 機密情報の取扱いが定義されているか
- ☑ 取引先の状況を把握できているか
- ☑ インシデント時の役割が決まっているか
- ☑ 契約終了後の対応が定義されているか
一つでも☑が付かない場合、
自社の外側にリスクが残っている可能性があります。
まずは「どこまでが自社の管理範囲なのか」を整理することが重要です。
