なぜSCS評価制度は“ここまで求めるのか”
本コラムは、経済産業省・IPAが策定した
「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」
について、その要求事項を中国古典『孫子の兵法』の視点から読み解くシリーズです。
第1回から第16回まで、
- ガバナンスを整え
- リスクを把握し
- 防御を固め
- 異常を検知し
- 対応し
- 復旧する
という一連の流れを見てきました。
そして最後に、多くの読者が抱く疑問があります。
なぜSCS評価制度は、ここまで多くのことを求めるのでしょうか。
SCS評価制度はチェックリストではない
SCS評価制度を初めて見ると、
- 社内ルール
- 資産管理
- 教育
- 監視
- インシデント対応
など、多くの要求事項が並んでいます。
そのため、
「やることが多いチェックリスト」
のように見えるかもしれません。
しかし、ここまで連載を追ってきた方なら分かるはずです。
SCS評価制度は単なる対策集ではありません。
組織を“負けない状態”にするための設計図です。
SCSが描く「負けない構造」
ここまでの16回を整理すると、
SCS評価制度が描いている一つの流れが見えてきます。
① 戦う前の準備
組織を戦える状態にする段階です。
② 敵と味方を知る
何を守るのか、
何を警戒するのかを把握する段階です。
③ 防御を固める
負けない状態を作る段階です。
④ 状況を把握する
異常を検知し、
その意味を判断する段階です。
⑤ 行動し、立て直す
被害を受けても立ち直れる状態を作る段階です。
つまりSCS評価制度は、
個別対策ではなく「負けない構造」の実装を求めているのです。
孫子が語る“負けない構造”
不可勝在己
―『孫子兵法・形篇』
(負けない状態を作ることは自分にできる)
ここまで見てきたSCS評価制度の要求事項は、
一見すると個別の対策に見えます。
- ガバナンスを整備する
- 資産を把握する
- リスクを評価する
- 防御を行う
- 監視する
- 対応する
- 復旧する
しかし、
これらを個別に見ると本質を見失います。
SCS評価制度が求めているのは、
対策そのものではなく「負けない構造」だからです。
孫子の文脈
孫子は、
勝利そのものを保証する方法を説いているわけではありません。
勝敗には、
- 相手の行動
- 環境の変化
- 偶然の要素
が関わるからです。
しかし、
敗北を避ける準備は自分で行うことができる。
とも考えています。
だからこそ、
- 状況を把握する
- 役割を定義する
- 資産を管理する
- 防御する
- 監視する
- 復旧する
という一連の準備が必要になるのです。
ビジネスの文脈
企業経営においても同じです。
サイバー攻撃をゼロにすることはできません。
すべての脆弱性をなくすこともできません。
しかし、
- 攻撃されにくい状態を作る
- 被害を小さくする
- 早く異常に気付く
- 迅速に対応する
- 早く復旧する
ことはできます。
SCS評価制度は、
攻撃をなくす制度ではなく、
負けない組織を作る制度なのです。
SCS評価制度が求める本当の到達点
これまで扱った要求事項は、
すべて異なるものに見えるかもしれません。
しかしその本質は一つです。
組織を「負けない状態」にすること。
だからこそ、
- ガバナンスが必要になる
- 資産管理が必要になる
- 防御が必要になる
- 監視が必要になる
- 対応が必要になる
- 復旧が必要になる
のです。
第1回から第16回まで扱ってきたすべての要求事項は、
この「負けない状態を作る」という考え方へ収束します。
チェック:負けない構造は整備されているか
以下は総集編としてのチェックシートです。
すべてに☑が付く状態が望ましい状態です。
- ☑ 組織の責任と権限が明確になっているか
- ☑ 守るべき資産とリスクを把握しているか
- ☑ 防御の仕組みを維持できているか
- ☑ 異常に気付き、判断できるか
- ☑ インシデントへ対応できるか
- ☑ 事業を復旧できるか
- ☑ 継続的に改善できる仕組みがあるか
もしこれらに一つでも☑を付けられない場合、
「負けない構造」がまだ完成していない可能性があります。
SCS評価制度は、
一つ一つの要求事項を満たすことが目的ではありません。
重要なのは、
- 状況を把握できること
- 判断できること
- 防御できること
- 立て直せること
を組織全体として実現することです。
今からできるアクション
☑が付かなかった項目がある場合は、以下から始めましょう。
- 第1回から第16回までを振り返り、最も弱い分野を一つ特定する
- 未整備の要求事項を洗い出す
- 教育・訓練の実施状況を確認する
- インシデント対応訓練・復旧訓練を実施する
- 年に一度、SCS全体を棚卸しする仕組みを作る
セキュリティの成熟度は、
導入した製品やツールの数では決まりません。
重要なのは、
- 組織として判断できること
- 組織として行動できること
- 組織として立ち直れること
です。
まずは、
自社がどこまで「負けない構造」を実装できているかを確認してみましょう。
まとめ
不可勝在己
―『孫子兵法・形篇』
(負けない状態を作ることは自分にできる)
SCS評価制度が求めているのは、
完璧な防御ではありません。
攻撃をゼロにすることでもありません。
組織として、
負けない状態を作り続けることです。
そして、その構造を維持し続けることこそが、
SCS評価制度の目指す姿です。
セキュリティとは対策の集合ではない。
負けないために設計された構造である。
