なぜ「継続的監視」が必要なのか
本コラムは、経済産業省・IPAが策定した
「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」
について、その要求事項を中国古典『孫子の兵法』の視点から読み解くシリーズです。
前回は「ネットワーク境界防護」を取り上げ、
被害を局所化し、全体崩壊を防ぐ構造の重要性を整理しました。
大分類:攻撃等の検知 / 中分類:継続的監視(5-1)
継続的監視とは何か
(SCS評価制度の要求)
SCSが求めていること
SCS評価制度では、
- ネットワーク接続やデータ転送の監視
- ネットワーク機器のログおよびアラートの分析
- 異常時の通知体制の整備
- 情報機器やソフトウェアの挙動監視
- 不審な挙動の早期発見
が求められています。
システムやネットワークの状態を継続的に把握し、
通常とは異なる挙動を検知して、
被害が拡大する前に対応できる状態を維持すること。
これらは単なるログ取得ではなく、
異常を発見するための仕組みです。
ここまでのシリーズでは、
- リスクを知る
- 侵入されにくくする
- 被害を広げにくくする
という防御の仕組みを整えてきました。
しかし、
どれほど優れた防御も、
異常に気付けなければ意味を持ちません。
なぜ継続的監視が必要か
(孫子における考え方)
孫子は次のように述べています。
微乎微乎,至於無形
神乎神乎,至於無聲
―『孫子兵法・形篇』
(極めて微細で姿が見えず、極めて静かで音も聞こえない)
優れた軍の動きは、
- 派手ではない
- 目立たない
- 気付かれにくい
とされています。
そして本当に危険な存在ほど、
目に見えにくいものです。
大きな異常だけを見ていても、
本質的な脅威は発見できません。
孫子の文脈
孫子が語る「無形」「無聲」は、
存在していないことを意味しているわけではありません。
むしろ、
- 気付きにくい
- 見えにくい
- 変化が小さい
状態を表しています。
優れた将は、
大きな出来事だけではなく、
わずかな兆候から状況の変化を読み取ります。
だからこそ、
敵が本格的に動く前に対処できるのです。
ビジネスの文脈
サイバー攻撃も同様です。
被害は突然発生するように見えますが、
実際には、
- 不審な通信
- 異常なログイン
- 予期しない設定変更
- 通常と異なるソフトウェア挙動
といった小さな兆候として現れます。
継続的監視とは、
見逃されがちな変化を捉え続ける活動です。
異常に早く気付く組織ほど、
被害を小さく抑えることができます。
監視は「状況を見続けること」
監視とは、
状態を常に把握し続ける行為です。
- 通信の変化
- データの異常な流れ
- システムの挙動変化
- 利用状況の変化
これらはすべて、
異常の兆候として現れます。
継続的監視とは、
異常を探す活動ではなく、
変化に気付く活動です。
ネットワーク監視が意味するもの
ネットワーク監視は、
通信の流れの変化を捉える活動です。
SCS評価制度では、
- インターネットから社内への通信の監視
- 社内から不正なサーバへの通信の監視
- ネットワーク機器のログ分析
- 異常時の通知体制整備
が求められています。
通常の状態では見えない異常も、
- 通信先の変化
- 通信量の増加
- 不審な接続
として現れます。
ネットワーク監視とは、
攻撃そのものではなく、
攻撃の兆候を捉えるための活動です。
内部監視の意味
SCS評価制度では、
端末やソフトウェアの状態や挙動の監視も求めています。
攻撃は侵入した瞬間に終わるわけではありません。
多くの場合、
- 侵入
- 潜伏
- 権限取得
- 横展開
という過程を経て進行します。
その過程では、
- 異常なプロセスの起動
- 不審な実行ファイルの配置
- 通常とは異なる利用状況
- 設定変更
などの痕跡が残ります。
監視の目的は、
異常そのものではなく、
異常の兆候を発見することです。
なぜ継続的である必要があるのか
SCS評価制度が求めているのは、
一時的な確認ではありません。
継続的な監視です。
攻撃は、
- 短時間で終わるもの
- 長期間潜伏するもの
- 段階的に進行するもの
があります。
そのため、
「今は異常がない」
だけでは十分ではありません。
常に状況を把握し続けることによって、
初めて小さな変化に気付くことができます。
監視を止めた瞬間から、
組織は状況認識を失います。
SCS評価制度が求める本当の到達点
SCS評価制度は、
- 監視を実施すること
- ログを取得すること
- アラートを確認すること
- 異常を分析すること
を求めています。
しかしその本質は、
「異常を見逃さない状態を維持すること」
です。
侵入を防ぐだけでは不十分です。
仮に侵入されたとしても、
- いつ気付くのか
- どこで気付くのか
- 何を根拠に気付くのか
が重要になります。
だからこそ、
監視は防御の後に置かれた検知の仕組みなのです。
まとめ
継続的監視とは、
- ツールを導入することではなく
- 状態把握を継続する仕組みです
異常に気付けるかどうかが、
防御の結果を左右します。
微乎微乎,至於無形
神乎神乎,至於無聲
(極めて微細で姿が見えず、極めて静かで音も聞こえない)
セキュリティの勝敗は侵入で決まらない。
異常に気付いた瞬間に決まる。
チェック:継続的監視は機能しているか
以下はチェックシートです。
すべてに☑が付く状態が望ましい状態です。
- ☑ ネットワーク通信の異常を把握できているか
- ☑ システムやソフトウェアの異常な挙動を監視しているか
- ☑ アラートを確認・分析する体制があるか
- ☑ 異常発生時に担当者へ通知される仕組みがあるか
- ☑ 監視結果をもとに対策へ反映できているか
- ☑ 継続的に状況を把握できる状態になっているか
もしこれらに一つでも☑を付けられない場合、
異常を見逃している可能性があります。
攻撃そのものよりも危険なのは、
- 侵入されたことに気付かない
- 異常を見ても判断できない
- 状況を把握できない
ことです。
まずは、
何を監視し、
どのような変化を異常として扱うのかを整理することが必要です。
今からできるアクション
☑が付かなかった項目がある場合は、以下から始めましょう。
- 監視対象となるシステムや機器を一覧化する
- 取得しているログを整理する
- 監視アラートの通知先を確認する
- 異常時のエスカレーション手順を確認する
- 監視結果のレビュー頻度を決める
- 過去のアラート対応状況を点検する
継続的監視の目的は、
ログを集めることではありません。
重要なのは、
- 異常に気付くこと
- 状況を理解すること
- 被害が拡大する前に対応すること
です。
まずは、
「どのような異常を見つけたいのか」
を明確にすることから始めましょう。
次回は「インシデントのレベル分け」を取り上げ、
検知した異常をどのように評価し、優先順位を付けるのかを整理します。
参考
- 銀雀山漢墓竹簡 – 中國哲學書電子化計劃
(『孫子兵法・形篇』「微乎微乎,至於無形;神乎神乎,至於無聲」) - サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度) | IPA
- サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度) | 経済産業省
